はじめに

時計の内部では、天真、垂直度、天輪の片重りといった、さまざまな現象が起きています。それらを順に見ていくと、ひとつの疑問が浮かびます。
測定器で数値を見ながら調整しているはずなのに、なぜそれでも直しきれない時計があるのか。
本記事では、人の手でしか直せないバランス調整について解説します。
バランス調整とは何をしているのか
バランス調整とは、テンプとヒゲゼンマイの動きを整え、時計が安定したリズムで振動するように導く作業です。
タイムグラファーなどの測定機器を使えば、日差、振り角、姿勢差といった数値を確認することができます。
しかし、数値が揃っていることと、実際に安定して動き続けることは、必ずしも一致しません。
数値では捉えきれないズレ
修理の現場では、数値上は問題がないにもかかわらず、実際には動きが不安定な時計に出会うことがあります。
測定器だけでは見えない要素
ヒゲゼンマイのわずかな癖。
テンプの振れ方の偏り。
振動の立ち上がり方や、減衰の仕方。
こうした要素は、測定器の数値だけでは捉えきれないことがあります。ここで必要になるのが、人の目と手による微調整です。
機械では代替できない理由
修理の現場では、数値や測定結果だけでは判断しきれない場面があります。
身体を計測器として使った職人
かつて、時計の修理をしながら、小さく歌を口ずさんでいる職人がいました。それは気分転換ではなく、一定のテンポを身体で刻むためだったそうです。
歌のリズムと、テンプの振れや戻りを見比べながら、「今の動きは、このくらいの秒だな」という感覚を掴んでいたといいます。
測定器がない時代、あるいは測定器だけでは足りない場面で、職人は自分の身体を計測器として使っていました。バランス調整が、人の手でしか直せないと言われる理由は、こうした感覚の積み重ねが必要になるからです。
直すのではなく、整える
バランス調整は、壊れたものを元に戻す作業ではありません。その時計が、これから無理なく動き続けられる状態に整えていく作業です。
過度に数値を追い込めば、別の部品に負担がかかることもあります。どこまで整えるか。どこで止めるか。その判断もまた、人の手による調整に含まれています。
モデル紹介:ヴァシュロン・コンスタンタン 1950〜60年代 手巻きモデル(Cal.1001系)
1950〜60年代のヴァシュロン・コンスタンタンの手巻きモデルは、仕上げの美しさと同時に、非常に繊細なバランス調整を前提とした設計が特徴です。
Cal.1001系ムーブメントでは、数値上の精度だけでなく、振動の質そのものが重視されます。修理の現場では、測定器の数値だけに頼らず、テンプの動きを目で追いながら、少しずつ整えていく必要があります。
このモデルは、人の手によるバランス調整が不可欠であることを、分かりやすく示す代表例です。
五十君商店が考える、バランス調整との向き合い方
五十君商店では、バランス調整を単なる作業工程とは考えていません。
その時計にとって最適なバランスを探る
時計の状態。
今後の使われ方。
部品への負担。
これらを踏まえたうえで、その時計にとって最適なバランスを探ります。数値を合わせることよりも、長く安定して動くことを優先する。それが、人の手によるバランス調整の本質だと考えています。
調整後の時計の扱い
調整が整った時計でも、日常の扱い方によって状態は変化します。無造作な保管や、不要な衝撃は、再びバランスを崩す原因になります。
使用していない時間の扱いも、時計にとっては重要です。無造作に置かれた状態では、微細な衝撃や姿勢の偏りが積み重なり、テンプ周りに余計な負荷がかかることもあります。
修理のご相談について:宅配修理・来店予約のご案内
五十君商店では、バランス調整を含む特殊修理にも対応しています。20年以上前の旧型モデルや、メーカー対応が終了した時計についても、自社工房内での部品加工や調整によって対応可能なケースがあります。
全国対応の宅配修理サービス
全国からご利用いただける宅配修理サービスをご用意しています。
専用の梱包キットを無料でお届けし、往復送料もかかりません。
宅配修理の詳細はこちら
https://www.igimi.co.jp/packing-kit/
店舗でのご相談・来店予約について
お近くに店舗がある場合は、直接お持ち込みいただいてのご相談も可能です。
来店予約はこちら
https://www.igimi.co.jp/reserve/
対応ブランドについて
五十君商店では、ヴァシュロン・コンスタンタンをはじめとする国内外の幅広い時計ブランドのオーバーホールおよび修理に対応しています。
ヴァシュロン・コンスタンタンの修理・メンテナンスについては、ブランドページもあわせてご覧ください。
https://www.igimi.co.jp/brand/vacheronconstantin/
まとめ
バランス調整は、測定器の数値を揃えるだけでは終わりません。ヒゲゼンマイの癖やテンプの振れ方の偏りなど、数値では捉えきれないズレを、人の目と手で少しずつ整えていく作業です。
どこまで整え、どこで止めるか。五十君商店では、数値を合わせることよりも、その時計が長く安定して動き続けることを優先して、バランス調整に向き合っています。